セラピスト応援インタビュー

他職種、他業種からセラピストリーダーへの応援インタビューです。
頑張ってほしい! 期待している! こんなことするといいと思う!など応援やアドバイス、情報をいただき、セラピストリーダーの皆さんのやる気、元気をサポートするコーナーです。
セラピスト応援インタビュー

国民健康保険依田窪病院 三澤弘道病院長

2021.02.17 投稿

長野県上田市近郊の長和町にある国民健康保険依田窪病院の病院長 三澤弘道先生にインタビューいたしました。
脊髄外科では名医と言われる三澤先生。全国から先生の”技術”を学びに医師が集まってきます。ベストドクターズ®社から、医師同士の評価によって選ばれる “The Best Doctors in Japan ”にも選出されています。

この度は、院長のお立場と整形外科医のお立場、そして地域住民の高齢化が加速する地域でのリハビリとそれに携わるセラピストへの役割や期待することをお話いただきました。

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◎三澤院長の所属の病院はこちら
国立依田窪病院
https://www.yodakubo-hp.jp

◎三澤院長のプロフィール
<現職>
国民健康保険依田窪病院 病院長

<ご経歴>
1981年 信州大学付属病院 麻酔科
1982年 信州大学付属病院 整形外科
1983年 市立伊那中央総合病院 整形外科
1986年 国保依田窪病院 整形外科
1989年 信州大学付属病院 整形外科
1990年 国保依田窪病院 整形外科
1997年 国保依田窪病院 診療部長
2002年 国保依田窪病院 病院長

◎三澤先生が医師になられたきっかけをお教えください。

 私は家が薬局でしたので、高校に入ったころは薬剤師でも良いかなと思っていました。理系に進んではいたのですが、どうしようかなと迷った時に高校の担任が医学部を勧めてくれたことがきっかけです。私の同期は優秀で、医学部38人や東大26人でしたね。薬局ももちろん良かったのですが、医師も人のためになる仕事ですし、父親に相談した時に、本当は父も医師になりたかったという話を聞いて余計にそう思ったのかもしれません。

 自治医大に入学したのも、当初からへき地医療をしたかったからではなく、偶然合格してしまったのでそれなら頑張ってみようということです。それが今でも、運命だと思っています。
 整形外科に進んだのも当時の医局長の勧誘からですし、整形外科の中でも背骨の手術に携わるようになったのは、脊椎外科の先輩の話からでした。つまり、全て人との縁です。こんなのどう?と誘ってくれる人が偶然現れて、その先輩についていったらこうなっていたという感じです。今でも整形外科、脊椎外科をしていてよかったと思っていますし、当時私を指導していただいた諸先生方とは、お付き合いをさせていただいています。

◎院長として、セラピストにどのようなことを期待されていますか。

全ての患者さんの状態を正確に観察して、適切に評価をし、回復がプラトーになるところまでもっていって欲しいという気持ちはあります。医師はどちらかというと、診断をして手術や保存的治療をして、経過をみていくだけになってしまうので、患者さんとの真の関係構築が必要ですよね。要するに、病棟や外来で気が付いたことを、医師に遠慮なく相談していただいた方が有難いと思います。

◎三澤先生は、院長であるとともに整形外科医でいらっしゃいますが、急性期医療、回復期医療、慢性期医療において、セラピストリーダーの皆さんに対して、求めるスキルはどんなことでしょうか。

○ 第1に、個人のセラピストとしてのレベルですよね。新卒からベテランまで色々なレベルの人がいますが、技術のレベルをチェックして、標準レベルに達しない人は教育していかないといけないですよね。

どんどん新しいことが出てきているので、その方法も伝えながらある程度のレベルを確保する必要があります。看護師の方々はこういったことを『ラダー』と言っていると思いますが、セラピストに関してはあまりないと私自身は感じています。具体的には、卒業して5年目だとこういうことができる、それをクリアするともう一つ上のレベルへ進むというシステムがセラピストにはないように見受けられます。やはり管理者は個々のセラピストのレベルを評価して、指導管理することが必要だと思っています。

○ また、技術的なスキルのほかに、患者さんの精神状態をうまく見極めていく力も必要ですね。ただ頑張れではダメですし、頑張れない患者さんに対してどう対応したらよいのか、この人のリハビリのレベルはどうしたら上がっていくのかきちんと伝えられるスキル必要です。患者さんは皆同じではないので、そういったスキルはある程度、標準化して一定以上に持っていくことが大事ではないでしょうか。

医師で言えば専門医がそれにあたりますし、場合によって手術については、例えばビデオや実技テストをすることもあります。全体的なテクニックやケアも大切ですよね。

○ 次に、病院には色々な職種がいます。その中でお互いに関わり合いながら横のつながりを持たないといけません。特に看護師と上手く情報伝達が相互方向にできるが取れるのが望ましいですね。リハビリに対する要望は当然ありますので、それを聞きながらこちらの要望も伝えるというコミュニケーションスキルは大事です。

○ 更に管理者になってくると保険請求の知識も必要となるので、そういった仕組みもある程度勉強してもらった方がいいかなと思っています。いろんな制約がありますからね。

○ 最後に、組織マネジメントも大事だと感じています。リハビリ部門全体のマネジメントですね。

開業医や小さな病院もそうではありませんが、当院のようにリハビリだけで何十人いるようなところは一大勢力です。それを束ねていく優秀な人を輩出していくことも必要です。

多部署と上手く関わっていく能力も必要でしょうし、自分の中の部署も組織としてまとめていかなくてはいけません。労務管理や職員教育などに精通することは、特に必須だと感じています。

◎理学療法士をオペ室へ入れて手術を見せることがあるそうですが、どのような効果があるのでしょうか。

理学療法士の方々はレントゲンなどを通じて、どういう手術をしているのかある程度把握していると思います。しかし、実際の手術を見ることは特に勉強になりますよ。意識づけができたり、その後のリハビリの内容にも影響があると考えています。

例えば腰椎の手術では、昔のように、大きな皮膚切開をして、椎骨から傍脊柱筋を広範囲にはがし、筋肉を犠牲にして神経の圧迫を取っていた時代から、今はなるべく体に優しい手術へと変わってきています。術後の痛みも軽いですし、そういう意味ではリハビリが早く進んで退院できるという経緯も理解できるのではないでしょうか。

セラピストは手術前から患者さんと関わることが多いのですが、その段階で患者さんの元々のレベルを評価していると思います。それが、入院期間中どのように変化していくのかを見ていければよいですよね。

◎回復期では、セラピストの施術内容が病棟には伝わっていないと耳にしますがいかがでしょうか。

例えば、やっと歩けるようになった人がいた場合は、日曜日でリハビリがない病棟では一日何もしないことになるので、そこは看護師が助けながら一緒に歩いたり、トレーニングしたりすることがあります。基本的には電子カルテがあるので、リハビリから看護師へ情報を届けるのが楽になりました。言わなくても見れば情報が分かりますしね。実際のところ、リハビリの人がどういうことをしているのか病棟での施術については分かると思いますが、リハビリ室での様子は把握していません。患者さんを連れて行った時に少し垣間見える感じですね。

◎看護部とリハビリテーション部の関係性はいかがでしょうか。

患者さんのケアにあたっては、医師が一番上で看護師がその下、さらに下がリハビリ職員ということはありません。実際、医師がトータルコーディネートできるかと言えばできていないと思います。特に、地方の回復期病棟へ行くと余計そう思いますね。ケースワーカーが入り込んでいることもあり、誰がコーディネートするのかという部分は非常に大事だと感じています。そういう意味では、リハビリ職員は家に帰った後の関係性はかなりありますし、その状況を看護師へ伝えることができればいいですよね。

そこで競い合ってどちらが偉いということをやる必要がないですし、それぞれがよい味を出してくれたらなぁと思います。

当院では、家で生活をしている人が一時的に病院へ入院してリハビリをし、元気になって帰るという治療を行っていますが、そのような治療をしているところは県内には少ないですね。都会であっても、一人暮らしの人がちょっと風邪をひいて体力、筋力が落ちてしまった場合、1か月ほど入院していただいて全身状態を見てリハビリや歩行訓練など日常生活のトレーニングをすることが結構、有効だと思っています。

これからは、そういう事例が増えていくのではないでしょうか。担当医師は総合診療科の医師が適切と思っています。看護師はどちらかと言うと全身状態を主にみますので、それ以外の部分、生活環境などをみていくのがリハビリとして求められているのだと思います。

◎国保依田窪病院の周辺地域は、高齢人口が増加している地域でもありますが、セラピストにリーダーシップをとってほしいのはどのようなときでしょうか。

与えられた職場で与えられたことだけをするのではなく、地域はどんどん変化しているので、それに合わせて訪問リハをする時などリーダーシップをとって欲しいですね。病院の中だけではなく、市町村との連携なども必要です。例えば、健康教室などです。当院の職員を派遣している町の健康教室は、非常に好評で、地域住民の方から感謝されています。今は一人の職員で行っていますが、今後はそれを交代でできれば良いと思っています。

◎全国のセラピストリーダーに応援メッセージをお願いします。

個々の患者さんを診て治療するだけではなく、一緒になって職場全体をレベルアップしていくことが大事ですね。患者さんの回復だけで達成感を得るのではなく、同僚や部下が職業人として成長していくことに対しても自分の満足を得るということです。おそらく、人のために働くということは皆やっていると思います。多くは、患者さんのために働こうという気持ちだと思いますが、やはり職場の中で力を合わせて、悩んでいる職員がいればそれを助けて持ち上げるということもしてもらいたいですね。

年功序列というのは私自身嫌いですが、やはり管理に関しては、適性がありますので、そうした能力がある人が、年齢に関係なく管理職になっているイメージはありますね。そして職責が人を成長させることもありますし、逆にストレスとなる事もあります。全員が管理職になるわけではなく、いわゆる非管理職として患者さんのところへ治療に行くことが好きな人もいます。そういった人が管理上手なわけではないので、その辺りは自分が色々な事柄を通して分析し、自分の立ち位置を鑑みながら、将来を見据えていくとよいと思っています。

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【インタビュー後記】
 三澤先生に出会ったのは10年以上前。
 当時から今も変わらず、高齢化が進む地域で重要な社会資源として地域医療を守ることにお力を注がれています。また、整形外科医として後進の育成にもご尽力されています。その中で、医師だけではなく、リハビリテーション部門が地域にどう貢献できるかを熱心にお考えであることが伝わってきました。病院の理念である「地域に密着したあたたかい医療」は先生そのものと言えます。
 三澤先生、ご多忙のところこの度はありがとうございました。