セラピスト応援インタビュー

他職種、他業種からセラピストリーダーへの応援インタビューです。
頑張ってほしい! 期待している! こんなことするといいと思う!など応援やアドバイス、情報をいただき、セラピストリーダーの皆さんのやる気、元気をサポートするコーナーです。
セラピスト応援インタビュー

Webサイトオープン記念インタビュー  日本理学療法士協会 副会長 斉藤 秀之氏

2020.12.29 投稿

 「セラピストリーダーズアカデミー」Webサイトオープンを記念して、公益社団法人日本理学療法士協会副会長であり筑波大学教授の斉藤秀之氏に伺いました。
 協会のお立場から、ご自身のこれまでのご経験から、現在のセラピストリーダーが置かれている状況から期待すること、これからのセラピストリーダーの役割などお話いただけました。

 公益社団法人日本理学療法士協会
 
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◎斉藤 秀之 氏のプロフィール
 昭和63年4月     藤井脳神経外科病院リハビリテーション科 入職
 平成5年4月      藤井脳神経外科病院リハビリテーション科主任 就任
 平成9年4月      医療法人社団筑波記念会筑波記念病院 入職
 平成11年9月     医療法人社団筑波記念会筑波記念病院 理学療法科長 就任
 平成14年3月     筑波大学大学院博士課程医学研究科環境生態系専攻 修了
 平成16年2月     医療法人社団筑波記念会筑波記念病院 リハビリテーション部部長 就任
 平成23年6月     社団法人日本理学療法士協会 理事 就任
 平成25年6月     公益社団法人日本理学療法士協会 副会長 就任
 平成28年7月     医療法人社団筑波記念会 リハビリテーション事業顧問 就任
 平成29年6月     医療法人社団筑波記念会 顧問 就任 (~平成30年7月)
 平成30年6月  公益社団法人日本理学療法士協会 (常勤役員副会長として勤務)
 令和 2年4月  国立大学法人筑波大学教授(グローバル教育院)就任

現在、公益社団法人日本理学療法士協会 副会長(常勤)として従事している


◎理学療法士になられたきっかけを教えてください。

 大学受験の時に何をやろうかと迷っていたのですが、たまたま本屋に立ち寄ったところ理学療法概論という書籍を見つけました。当時、私はバスケットボール青年で、スポーツ関係で何かできることはないだろうかと考えていました。

 その書籍には、スポーツの理学療法について書かれており、トレーナーのようなことも出来ると載っていたことや、石川県金沢市に三年制の国立の学校があることも関係しています。金銭的にもそれほど裕福ではなかったという事情もあり、その学校の就職率は100%だったので早く自立したいという思いと現実的な部分が重なり、受験をして合格できたのでこの道に至ったという経緯になります。

◎学生時代の経験は、現在の仕事に生かされていますでしょうか。

 直接的にはないが、自分が学生時代に運動をしたり社会人になってクラブ活動をしたりしていたこともあり、アマチュアスポーツをされている患者さんが来院された時に表面的なところだけではなく、選手の立場になってもっと込み入った話をしながら、治療プログラムを作ることができるという観点からみると、役立っているのかなと思います。

 療法士は、クラブチームなどで活動している人もいますが、それだけでは生業として成り立たず、皆さん自分の時間を使って取り組んでいるケースが圧倒的に多いと思います。

 私が理学療法士として現場にいた頃に比べると、そういった分野は発達してきてはいますが、諸外国はそれで生計を立てることができるのに比べて、日本ではまだまだですよね。ただ、おそらくこれからも伸びていく分野であることは確かです。

◎全国で活躍する理学療法士(セラピス全体でも)の現場で抱えているマネジメントの課題、置かれている現状をお教えください。

 私自身、今は現場を離れているのですが、一つには現場の管理者が概して若いということが挙げられると思います。自己実現や成長、指導やマネジメントなど会社から求められているところについて葛藤があるのではないかと感じています。もっと患者さんを診たいが、立場上、人を指導し、お金の計算をしないといけないというところが割り切れる人と割り切れない人がいます。

 あとは、どうしても医療や産業が注目を浴びている一方で、収益性のところもかなり厳しく言われてきている点です。理学療法士を含め、リハビリテーション職は、病院では特に単位や時間で評価されます。自分そのものではなく、自分が行った仕事量で評価されることに関する捉え方や、それを部下に言わなければならないという悩ましさがありますよね。経営者との間に挟まれ、自分の置きどころが大変だろうなと思います。
 かつ、今は新型コロナウイルスのこともありますよね。感染に対する知識や感染管理と実際の患者さんへの接触行為が相反するという状況の中、我々の業界が医師や看護師と比べると若干、知識に乏しいところもあるというのが現実です。
知識のなさによる怖さを感じながら、社会や職場からの評価のされ方に恐れや逃避を感じているのではないでしょうか。

 今は、給与面や雇用調整、来年度の採用を控えるという話が徐々に出てきている中で、さらに管理者の人は悩ましいのではないかと想像します。

◎日本理学療法士協会にて副会長でご活動されていらっしゃいますが、協会において、セラピストのリーダー育成に関してどのような意見、課題が出ているのか、具体的なお取組みがあればお教えください。

 辛口になるかもしれませんが、自分で課題を解決するような思考や手がかりを探しにいく、経営者の方や上長など異なる職種の管理者とディスカッションをしながら合意形成をしている部分など、本来であれば管理者として必要なところが若干乏しいのではないかと感じています。
 マニュアルや答えを管理者も求めていて、協会には何か指針はないのかという問い合わせが少なくないですね。協会は、プラットフォームとして示すことができますが、コンサルタント事業ではありません。
そういうときにこそ、自身で整理して、現場で最善の道を模索し、周囲の多職種とのコンフリクトを解決策を示すという管理者になってほしいと考えています。

 私たちの時代は“サムライ的な管理者”でよかったのですが、今はハラスメントなどで萎縮をしてしまい、経営者の皆さんの都合のよい管理者になっているような気がします。例えば、医師や看護師が自分の専門職としての専門性を主張しつつ管理をしているわけで、その部分が理学療法の業界においてはバランスがよくないという話をすることはありますね。
 よい時代があり、そこに安住してしまったという感じは否めないと思います。それは決して、個々人が悪いわけではなく、業界文化が悪いのかもしれません。ただ、それは理学療法だけではなく、リハビリ業界全体の話になるのかもしれませんが。
 だからこそ、そこに問題意識を持たずにきてしまった、そのツケがきているような気がしますね。

 おそらくディスカッションとして異なる意見があることを恐れているのだと思います。チームワークやチーム医療、カンファレンスで意見をぶつけ合うことによってよい成果物が生まれることもあると思いますが、コンフリクトを起こすことがよくないと感じている風潮もあるのではないでしょうか。

 医師の指示のもとでという職種上の法律の身分的なものもありますし、患者さんからクレームをもらいたくないという抑圧された感じはしますよね。“よい子”過ぎて損をしているのかもしれないですね。概して言うと、セラピストは患者さんのために我慢しようとし過ぎているのではないでしょうか。

◎回復期リハビリテーション病棟協会のPTOTST委員長もお務めですが、医療や介護での機能の異なる組織(急性期、回復期、慢性期、介護)において、セラピストリーダーの役割の違いとこれからのそれぞれの役割をお教えください。

 いずれにも共通して言えるのは、自分の理学療法士としての確固たる“背骨を作る”と言うことですね。理学療法士が責任を持ってやらなければいけないことは何かということをきちんと学ぶ。それがベースにないと、マネジメントに関してもおそらく自信がつかないと思います。

 その上で、患者さんをしっかりと診られるようになるということですよね。患者さんを診ることができないのに管理職になるというケースは、昔はそれでもよいかなと感じていましたが、数々の事例を見ていると、患者さんのことに関して適当に相談に乗っている上司には、下のスタッフはついていかないですよね。特に、この業界は。

 例えば、「自分の思う通りにやればいいよ」と優しい管理者を気取っている人もいるのですが、それでは上司に不信感を抱き、下のスタッフは職場から離れていきます。セラピストとしての教示、さらに一緒に考えてあげる姿勢を見せることが大切であって、「自分の思った通りに好きにやればよい」と伝えることが優しさだと勘違いしている上司では、多分、よい人材がいなくなりますよね。

 急性期、回復期他、どのフェーズも命のリスクと向き合っていますが、急性期は特にリスクが高く、より管理が大変です。私たちは患者さんに対して、活動を仕向けるようにしていくのが仕事なので、リスクを守りながら、足の親指一本でも動かして、こわばりを無くそうなど、そういった視点をきちんと部下に伝え、医師や看護師にも提案できることが大切です。それは、おそらく私たちにしか言えない部分でもあるので。

 回復期においては、とにかく「立たせて歩かせること」にこだわりを持って欲しいですね。理学療法士であれば、そこに責任を持たないといけないと思っています。生活期になると、少しでも、身体機能が落ちたり維持できなかったりする兆候があれば、素早く対応することが大事です。それを部下や周りにも情報提供することができるスキルが必要かなと思っています。

 また、急性期であれば医師や看護師で十分ですが、回復期になるとOTやST、ソーシャルワーカー、生活期になるとそこにケアマネや看護師が加わるといったように、ステージによって関わる職種が異なることを踏まえなくてはいけません。さらに、管理者は部下や患者さんのことを先読みして指導できる力が必要です。急性期や回復期はどちらかというと右肩上がりの先読みでいいのですが、回復期になると落ちていくことを考慮しての先読み、アドバイスが必要な気がします。

◎本サイトに期待することがあればお話しいただけますか。

 ぜひ、チャレンジングなサイトを目指していただきたいです。マネジメントや管理のことは、公式的な書物やフォーマルな場ではなかなか聞けないと思うので、困った時やライブラリー的な感じで、ここにいけば何かヒントをもらえるという場所になればよいのではないかと期待しています。

◎全国のセラピストリーダーに応援メッセージをお願いします。

 管理者の皆さんには、もっと自信を持ってほしいと思っています。管理するための管理をするのではなく、目の前の患者さんをよくするためにどうしたらよいのか、という視点を自分の部下や周りと共有するという意識でいれば必ず伝わるはずです。
 経営者であろうが医師であろうが、患者さんのためという議論をすれば恐れることはないですし、その結果、きっと自己実現や自分にハッピーな結果になると思っています。

 謙虚に、自信は失わず、思いは大きく描いて、ぶつかっても少々へこたれずにやったらいいと思います。これから絶対にこういう意思が大事になると思うので、へこたれずに頑張って欲しいです。

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 臨床も管理も研究もすべての分野から、全国のセラピストリーダーの皆さんへのメッセージをいただけたと思います。
 協会のお立場から見えるセラピストリーダーに必要なことをお話いただけました。
 斉藤副会長、お忙しいところご対応いただきありがとうございました!