コラム

各専門分野の方々から、セラピストリーダーの皆さんが現場マネジメントで役に立つ情報やヒントをご執筆いただくコーナーです。
医療や介護の業界に限定せず、幅広い情報が集まるコーナーです。
他業種コラム

「どうしたらできるか」の志〜シルバーリハビリ体操 全国オンラインフェスティバルから見えたこと〜《斉藤 秀之氏連載シリーズ vol.4》

2021.05.06 投稿

第4波ともいわれる「COVID-19の猛威」が続くなか、今回は昨年度に開催された「シルバーリハビリ体操 全国オンラインフェスティバル」についてお伝えしたいと思います。

公益社団法人日本理学療法士協会は、厚生労働省の後援を得て、2021年2月8日(月)に「シルバーリハビリ体操 全国オンラインフェスティバル」を開催しました。本イベントは、全国各地で展開されていた介護予防事業がCOVID-19により中止を余儀なくされ、高齢者の不活動による心身への影響にとどまらず、医療崩壊とよばれる社会の状況の中で住民の自助・互助が妨げられている現状を鑑みて、やむにやまれなくなった全国の活動家たちの声がきっかけとなったと聞いています。

この背景には、日本理学療法士協会が数年間取り組んでききた住民主体型の介護予防事業の全国展開があります。茨城県立健康プラザ管理者である大田仁史氏(医学博士)が考案された「シルバーリハビリ体操」とその体操を用いたリハビリテーションの理念や介護予防の重要性および体操指導などを住民へ教育し、その住民が主体的に自治体と教室運営を行うシステムである「シルバーリハビリ体操指導士養成事業」があります。この事業を、茨城県内にとどまらず全国に展開するために、47都道府県理学療法士会からマネジャーを公募し、この仕組みの研修を行い、それぞれの都道府県および市区町村とともに事業を構築し、今では30以上の都道府県のどこかで開催されているのです。

その活動家のなかで、現在この業務を中心的になっている石川県の北谷正浩氏と石田修也氏は、COVID-19後にいち早く、厚生労働省および日本理学療法士協会の確認を得て新しい生活様式下での住民主体の介護予防事業の運営のガイドラインを作成されていました。

北谷正浩氏、石田修也氏が全国の専門家の活動家の皆さんに「オンラインで全国をつなげてみないか」という声掛けをして、活動家と自治体の皆さん、そして要請された住民の皆さんの力が結集されて実現したのでしょう。

短い準備期間と前例のない事業であるにもかかわらず、この時期に、北海道猿払村から沖縄県宮古島氏まで全国33市町村、700名以上の住民や行政職員の皆様が当日つながった光景には、目頭が熱くなる想いでした。

なぜ目頭が熱くなったか、です。昨今、あたかももっともな言葉を網羅し、できない理由を並べて「挑戦」ではなく「安全」な取り組みを志向することが当たり前のような、それが立派な行いのような世のなかの風潮がないでしょうか。今回33市町村の職員や住民が参加できる土壌を作っていた理学療法士の活動は、考えながら、動きながら作っていく新たな取り組みに何ひとつ不平を言わず、「どうしたらできるか」の視点で当日まで準備をしていたことに尽きるのではないでしょうか。

では、それがなぜできたのか。自分がやりたいではなく、住民の思いや行政の皆さんの思いを自分たちが動くことで役に立つことができるという、専門家としての高い予見性を持っていたからではないでしょうか。あるいは、その達成感をすでに会得している達人たちではないかと思います。案の定、当日画面で拝見した住民の皆様のお姿から私はエネルギーを得たのです。きっと参加していた皆様も同じでしょう。つまり、「住民の力」を感じたのです。

このイベントは、今後の全国の活動家の組織化につながるとともに、全国の住民を組織化していく可能性を感じています。「シルバーリハビリ体操」にとどまらない、全国の介護予防の取り組んでいる住民の力を引きだす組織を作り出すことが今後の大きな仕事になるでしょう。

執筆: 
斉藤 秀之(さいとう ひでゆき)
(回復期リハビリテーション病棟協会PTOTST委員会委員長 筑波大学グローバル教育院教授)