マネジメントリーダーリレーインタビュー

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マネジメントリーダーリレーインタビュー

徳山リハビリテーション病院・広島中央リハビリテーション病院 神田 勝彦さん

2020.12.28 投稿

 徳山リハビリテーション病院(山口県)と広島中央リハビリテーション病院のリハビリテーション部門の管理職であり理学療法士の神田(じんでん)勝彦さんにインタビューしました。2つリハ部門を統括する神田さんのマネジメントの実際を伺いました。

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◎神田さんの所属の病院はこちら
 医療法人社団生和会徳山リハビリテーション病院 
 医療法人せいわ会広島中央リハビリテーション病院

◎神田さんのプロフィール
<ご経歴>
2003年3月 吉備国際大学 保健科学部 理学療法学科 卒業
2003年4月 社会医療法人財団 池友会 新行橋病院 入職(急性期・回復期・外来)
2007年2月 医療法人 圭泉会 稲医院 入職(通所・訪問・外来)
2012年4月 医療法人社団 生和会 徳山リハビリテーション病院 入職
2012年7月 同 リハビリテーション部 主任
2013年4月 同 リハビリテーション部 課長補佐
2015年4月 同 リハビリテーション部 課長
2018年4月 同 リハビリテーション部 副部長 ※部長医師
2019年10月 医療法人社団 たかし会尾鍋外科病院【グループ病院】
       リハビリ部 副部長兼務(障害者一般)  ※新設移転準備
2020年6月 医療法人せいわ会広島中央リハビリテーション病院開院【グループ病院】 
      リハビリ部 部長兼務(回復期・障害者一般)
2020年6月 生和会グループ事務局リハビリテーション管理部 中国エリア部長兼任

<資格等>
2003年4月 理学療法士免許取得2006年2月 BLSプロバイダーコース修了
     /日本ASLS協会
2010年11月 認知症ケアマネジメントセンター方式 基礎コース・推進コース修了
     /認知症介護研究・研修センター
2013年9月 おむつフィッター3級取得/むつき庵
2014年1月 回復期セラピストマネジャー認定
     /回復期リハビリテーション病棟協会
2014年11月 地域包括ケア推進リーダー修了/日本理学療法士協会
2014年12月 介護予防推進リーダー修了/日本理学療法士協会
2015年12月 3学会合同呼吸療法認定士取得/3学会合同呼吸療法認定委員会
     (日本胸部外科学会・日本呼吸器学会・日本麻酔科学会)
2016年12月 日本理学療法士協会指定管理者(上級)取得/日本理学療法士協会
2017年3月 山口県介護予防PT・OT・ST指導者養成研修修了/山口県
2017年11月 訪問リハビリテーション管理者養成研修
   (STEP1・STEP2・STEP3)修了/訪問リハビリテーション振興財団
2018年5月 認定理学療法士(脳卒中)取得/日本理学療法士協会
2018年12月 山口県糖尿病療養指導士取得/山口県医師会

現在の所属、役割やお立場を教えていただけますか。これまでのご経歴もお願いいたします。

 現在、山口県の徳山リハビリテーション病院と、広島県の広島中央リハビリテーション病院のリハビリ部門を任されています。今年度からは、生和会グループの中国エリアの統括も担っています。

 セラピストになって今年で18年目になります。役職者としては9年目です。吉備国際大学を卒業後、理学療法士として福岡県の病院で急性期や回復期をメインに働いていました。その中で退院後の生活に興味を持ったのと、へき地医療にも関わりたいと思い、奄美大島へ飛び無床診療所で働きました。

 奄美大島を選んだのは、新人の時のゴールデンウィークに自転車旅をしたのがきっかけです。奄美大島の人は優しく温かみがあり、港で休んでいれば現地の人がおにぎりを持ってきてくれるような所でした。旅を終えて島のことを調べてみると、リハビリに関わる人材があまりいない地域と知り、いつか貢献したいと思いました。奄美では、訪問や通所リハビリの経験を通して、疾患以上に人をみること、地域生活の視点でリハビリを考えることを学びました。

 学び直しをしたい気持ちや家族のことも気になり始めた頃に、徳山リハビリテーション病院が開院することを知りました。もう一度、回復期で主体的で生活の視点を取り入れたリハビリをしたいと思い入職に至りました。

所属の病院、法人のご紹介をお願いいたします。

 所属している法人の生和会グループは、中国エリアと関西エリアにリハビリ病院を中心とした病院や施設が多くあります。医療と介護の分野で地域の方々を支援させていただいています

 徳山リハビリテーション病院は、山口県周南市に2012年に開院した120床回復期の病院です。在宅支援センターを併設していて、通所リハと訪問リハ、居宅事業所があります。

 広島中央リハビリテーション病院は、広島市中区に今年6月に開院しました。110床の病院で透析センターも併設しています。私は立ち上げ準備の段階から関わらせてもらっています。

リハビリテーション部のご紹介をお願いいたします。

 徳山リハビリテーション病院のリハスタッフは、在宅支援センターを合わせて100名程度います。リハ部の理念は「高度なリハビリテーション医療をリハマインドとともに」です。医師もコメディカルも全職種が連携して、患者さまの立場から発想したリハケアサービスを提供するために切磋琢磨しています。

 広島中央リハビリテーション病院のリハスタッフは70名程度で、徳山と同じように病棟配属にしています。朝礼もカンファレンスも多職種が集まって行っていますし、仕組み作りや業務改善も他部門の状況を考えながら進めています。

 どちらの病院も専門志向と協働志向のバランスが良いですし、なにより若手もベテランも患者さまのために学び続けようとする風土が生きていると思います。

新人研修で講義中の神田さん

理学療法士になられた動機、きっかけを教えてください。

 高校生の時に自分の祖父がリハビリしている姿を見たのがきっかけです。祖父が糖尿病で透析を受けるようになって段々と体も弱くなり、平行棒でなんとか歩いている姿を見ていたのを覚えています。「自分もいつか困っている患者さんに何かできることがあったら良いな」と想い、理学療法士を目指しました。

リーダー(役職)になりたてのとき、壁にぶつかったこと、それをどのように克服したのかをお教えください。

 当初は“自分でやった方が早い病”でした。他の人に仕事を頼んでも話が進まない、結局二度手間になってしまうということはよくあると思います。周りのスタッフができないままになっている、ということに気が付いた時に壁を感じました。
 マネジメントは、人を介して物事を進めていくことが一つの定義ではあると思いますが、人を介してうまく進めるということがすごく難しかったです。今は時間ではなく、期間で考えれるようになってきましたので、信じて任せて待てるようになってきました。そうすると人の特性にも気づけるようになりました。ビジョニングやコーチング、アンガーマネジメントなどを学んだことも大きいです。

 広島中央リハビリテーション病院は駆け出しのため、理念方針の浸透が課題です。これから時間をかけてやっていかないといけないです。徳山リハビリテーション病院は理念方針がすごく浸透していて、部門の方針についてはバージョンアップを考えてもいいレベルになっていると思っています。

理念が浸透していると感じるのはどのような時でしょうか。

 リーダー達と話していても、個人的価値観を基に議論をすることはなくなりましたし、伝え続けてきた理念方針の解釈が患者さまのリハビリに反映されている場面をよく見かけるようになりました。部門で行ってきた見える化や、ベテランや中堅スタッフの実践力が若手に伝わって、文化風土になっているおかげだと思います。

 あとは、外部の方に見学に来ていただいた際に「どのスタッフに聞いても統一した方針が聞かれますね」とフィードバックしていただけることが増えてきました。そういう声を聞くと、浸透しているのだと感じることができます。

見える化とは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

 方針や目標などは、スタッフステーションやリハビリ室など見える所に掲示しています。言葉や文字だけではなく、数値化できるものはできるだけ数字に変えています。バランススコアカードでの数値管理もしていて、部門や外部環境の変化を見えるようにしています。リハビリの単位数などは分かりやすいのですが、挨拶などはそれぞれの見方があるため、よくできているかどうかは数字に表しにくいものです。定性的なものは因数分解するといいと思います。大変よくできましたの“大変”とは、相手を見て、声が大きく、笑顔があって、気持ちが心まで届いているなど。要素に分解して示すことも見える化のヒントになると思います。

 今はコロナ禍でできませんが、毎月1回出勤スタッフに全員集まってもらい、方針説明や分かりやすいスライドで数字の解釈を伝えたりしてきました。現場では、毎日の終礼などで各階の責任者から日々の行動に落とし込めるよう発信してもらっています。見える化と聴こえる化の両立が肝要なのかもしれません。

PT、ST、OTの3職種をまとめるコツがあればお教えください。

 私もかつては”ザ・PT”でした。在宅に携わり始めた頃、訪問リハビリの症例で嚥下障害の方がおられました。ケアマネからは起きるためのリハビリや家族に移乗の指導をしてくださいと言われたのですが、ご家族と話をしているうちに「夫は美食家だったので、ベッド上でもいいから最期まで食べさせてあげたい」との要望がありました。私のような視野の狭い小さなPTでは何もできませんでした。その時、PTとしてのプライドにとらわれていては、救える利用者さんはすごく限られてくるなと思いました。

 それまでは立派なPTを目指していましたが、それからは立派なセラピストを目指すようになりました。PTとしての職務よりも、ご本人ご家族が望むサービスを提供することが自分の使命なのだと。今は、各職種がどうあるべきかということよりも先に、リハビリテーションとは何かいうことから話すようにしています。

 昔は理学療法や作業療法の部屋も分かれていなければいけないという時代でしたし、回復期や介護保険ができたのも2000年です。養成校でもまだまだチーム医療を考えるカリキュラムは少ないと思います。高い専門性が集まることがチーム医療なのか、それとも重なり合って協働を重視することがチーム医療なのか、もちろん両立が理想ですが育成のうえで優先度は病院によって違いますね。

 私がいつも例えるのは、”ザ・PT”というのはタワーだと思っています。タワーという専門性は高いかもしれませんが、それらが重なり合うことはありません。一方で、山であればふもとで出合います。協働という山で、価値観の共有や技術移転をしながら成長してもらえれば、患者さまが要求するサービスをより提供しやすいのではないでしょうか。当院ではこの実践者をジェネラリストと呼んでいます。各職種が大きな山であるスペシャリストに成長して、プロフェッショナルを目指してほしいですね。

スタッフへの指導中の神田さん

リーダーとして、これだけは身に着けておいたほうがよい、経験しておいた方がよいと思うことをお教えください。

 経験した方がいいのは、空振り三振ですね。バッターボックスに立たずに外野で文句を言うよりも、バッターボックスにきちんと立ってバッドを振ることがチャレンジだと思います。三振したとしても、こういった振り方では球に当たらないという経験を繰り返していくことが必要だと感じています。そうすれば後輩が失敗したときも、その気持ちが分かってあげられますし、具体的なアドバイスもできるようになると思います。10球中1回当たれば良くて、ピッチャーゴロでもいいかなと思っています。大事なことは同じ椅子に座らず、いろんな経験をすることですね。

神田さんがリーダーとして活動するとき、軸としていること、大事にしていることがあればお教えください。

 転ぶときは前に転べばいいんじゃないかと思います。後ろに転ぶと危ないですので、前に転ぶ力と立ち直る力を養うことです。その力は患者さまへの“想い”からくるものだと思います。転んだ時の自分の辛い気持ちよりも、ベッドで寝ている患者さまのキツそうな顔だったり、呼吸をするごとに咳が出たり、一歩ごとに走る痛みなど。それに比べると、自分の辛さはたいしたことではないように思えます。これまで意識のない人工呼吸器をつけている患者さまや、ひとり暮らしなのに寝たきりの患者さまのリハビリもしてきました。それからすると今の自分はよっぽど楽な生活をしていますよね。

 徳山も広島も病院の方針にありますが、「患者さまの立場で発想すること」が職業人としての判断基準になると思います。常に患者さまの顔を思い浮かべながら、物事を決めていくことが大事だと思います。

お忙しい時の自己啓発等の時間確保の工夫をお教えください。

 ながら生活をしています。歯磨きしながらストレッチをしたり、風呂に入りながら日々の内省をする、駅のホームで本を読む、好きなテレビも録画をして倍速で見ています。でも休むときは休みますし、ぼーっと散歩に出ることもあります。そんな時、いろんな事がひらめきますね。

最後に、自分を元気にしたいとき、どんなことをされていますか。

 時々後輩からもどうやってモチベーションを維持しているのか聞かれることがありますが、意識しないので私にはすごく難しい質問です。

 よく考えてみれば、自分よりも頑張っている人を見ることで、刺激をもらい自分を奮い立たせている気がします。テレビでいうとプロフェッショナルや情熱大陸に出てくる方々、職場では同僚達が目をキラキラさせて頑張ってくれている姿を見るのも嬉しいですね。

 もうひとつは、理学療法士を目指すきっかけになった祖父でしょうね。リハビリを受けていた祖父に、いつか自分の手で何かやってあげたいなと思いながらも、大学4年生の時に他界してしまい、その夢は叶いませんでした。今は、患者さまと祖父を照らし合わせながら見ています。やはり患者さまへの想いが根本にあるのだと思います。

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【インタビュー後記】
 インタビューを終えて思ったのは、組織づくりや人材育成を科学的に考えて行動されているということでした。「定性的なものは因数分解する」は、スタッフ指導の的確なアドバイスにつながっているでしょうし、結果として、「理念」も具体的な伝え方の成果として浸透しているのだと思いました。
 神田(じんでん)さん、お忙しところインタビューをお受けいただきありがとうございました!